「出於奇」の文法

土曜日 , 19, 10月 2013 Leave a comment

大塩滋樹という方の戦前の漢文参考書に『漢文解釈の良師 : 文法に重点を置く』というのがありまして(こちらで閲覧できます)、そこに

古之名將必於奇然後能勝

という一節の「出於奇」を解説してこう述べてあります。

奇ヨリ出シテではない。奇ヨリと訓むと何を奇ヨリ出すかとなって意味が通らない。

而して氏はこれを読み下して「古の名将は必ず奇を出して、然る後能く勝つ」とするのです。

 

まづこの「出」を氏は「出す」と他動的に読んでおられまして、そのために「奇」を其の客語として「奇を」と読まなければならなくなるわけでありますが、「出」を自動詞として「出づ」と訓めば、「奇に出づ(直訳的に読めば、出づること、奇に於いてす)」と読み下しそれにて済むのです。仮に他動的に読むにせよ「出」の下に客語が省略されておると看做し「出之於奇」(之を奇に出だす)の如く考え得べきものであります。「之」は何でも適当なもの(たとえば謀など)を指すのです。言わずとも分るため、省略されたというわけです。松下文法に言う非帰着化であります。

また「奇より」と読むか、「奇に」と読むかは訓読上の問題でして、文法上は「奇」は「於」に対して依拠格的客語であるというのみです。「於」は「奇」の依拠格なることを明示する記号と考えればよい。「出奇」では他動性(奇を出だす)、依拠性(奇に出づ)のいづれであるかが判然としないので、依拠性であることを明らかにせんために「於」(前置詞性単純形式動詞)を用いるのです。もし「以」を用いれば、「出以奇(出だすに奇を以ってす)」となり、「出」の他動性なることが明らかになり、「奇」は其の客体概念ということになります。漢文の格の不明瞭なるを此くの如き形式詞を運用することで救済しておるのです。

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